シンポジウム
自己の発達:環境との相互作用から立ち上がる「私」

企画者・司会者:高橋 登 (大阪教育大学教育学部)

話題提供者:板倉 昭二(同志社大学赤ちゃん学研究センター)

話題提供者:別府 哲(岐阜大学教育学部)

指定討論者:森岡正芳(立命館大学総合心理学部)

企画趣旨

私とは何か。また,それを支える自己とは何なのだろう。自己の問題は,多様な心理学分野で重要なテーマであり続けてきた(梶田・溝上, 2012)。自己が他者との関わりの中で成立すると考えることは,多くの心理学者にとって当然のように思われるが,ナイサー(Neisser, 1995)はさらに,区別すべき自己を,生態学的自己,対人的自己,概念的自己,時間的拡大自己,私的自己の5つに整理している。中でも,視覚,聴覚,内受容感覚など,物理的環境との相互作用に基づく生態学的自己は,すべての自己の基層をなすものと考えることができるだろう。すなわち,自己にとっての環境は,対人的なものばかりでなく,物理的な環境でもあるのである。本シンポジウムでは,環境をこの様なものとして捉えた上で,環境との相互作用の中からどの様に自己が立ち上がるのか,お二人のシンポジストに論じていただく。板倉昭二氏は長らく乳児の自己の発達について研究を進めてこられただけでなく,他の種,とりわけ霊長類の自己についても考察を深めてこられた。こうした点を踏まえ,板倉氏にはヒトの赤ちゃんの自己の特徴について論じていただきたいと考えている。また,別府哲氏は,自閉症児の研究・実践を長く進めてこられた。別府氏には自閉症児の環境との関わり方の特徴から,自閉症児に特有の自己のあり方について論じていただく。別府氏の論点は,自閉症児の理解と支援に貢献するものとなるだろう。お二人の発表を通じて,自己の発達についての私たちの理解が,根源的なところから深まることを期待している。指定討論者は森岡正芳氏にお願いした。臨床心理学者である森岡氏は,豊富な臨床経験をお持ちであるだけでなく,自己の問題について該博な知識もお持ちである。森岡氏には,話題提供者の発表について,より広い理論的な枠組みの中で整理していただけるものと考えている。

演者1:板倉 昭二 (同志社大学赤ちゃん学研究センター) 
自己の進化と発達-自己鏡映像認知と身体的自己の視点から-

「自己」は,今も昔も様々な領域でホットな話題であり続けている。本講演では,系統発生的な視点から,自己鏡映像認知の問題を扱った研究を,また個体発生的な視点から,乳児における自己身体知覚の問題を扱った研究を概説する。比較認知科学の領域では,自己鏡映像認知の研究が多岐の種に渡って研究されてきた。1970年にScience誌に発表されたG. Gallupの“Chimpanzees: self-recognition”は最もよく引用されている論文の一つである。このラインにそってニホンザルを対象に実施した演者の研究と最近発表された知見を報告する。P. Rochatは,環境との相互作用による乳児の身体的自己知覚について多くの研究を行っているが,本講演では,それをベースとして,乳児における身体および身体運動と自己の関係についてその発達の理論的考察を行う。

演者2:別府 哲(岐阜大学教育学部)
自閉症児と自己

 自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder; ASD)児者の自己をどうとらえるかは複雑な問題であり,全面展開する力量はない。そのため今回は2つの視点に絞って話題提供をさせていただく。1つは,感覚過敏-鈍麻との関連で生じる運動主体感(sense of agency)の弱さである。綾屋(2010)は,バスケットボールのドリブルの運動主体が自分だと感じられない体験を説明している。自分がドリブルをすることで生じるであろう音,振動,ボールの跳ね返りなどを予測し,予測通りに結果が生じると運動主体感を感じる。しかし綾屋は,感覚過敏のため予測とのずればかりを感じ取り続けてしまう。この点は大人だけでなく,ASD児の発達初期から存在することも予想される。実際近年,ASD児の早期兆候として社会性より,姿勢を含めた運動発達の障害が指摘されている。2つはアタッチメント(attachment)の問題である。人が出す社会的刺激に半ば自動的に注意を向ける傾性を持ち,生後早い時期から人と一緒に笑いあう情動共有経験を作りやすい定型発達児と異なり,人が恐怖の対象であるASD児は,独自のプロセスと内容を持ったアタッチメント形成を行う。アタッチメントは自他理解と密接に関連しており,その意味で自己形成も影響を与える。このユニークさについて話題提供したい。

関西心理学会第131回大会準備委員会
 (参加・発表申込:
kanshin.daikyo+apply@gmail.com)

 (その他お問い合わせ:kanshin.daikyo@gmail.com) 

This site was designed with the
.com
website builder. Create your website today.
Start Now